カメラの使い方や写真の撮り方など、全国各地でワークショップの講師としても活躍
“写真と言葉”に衝撃
その世界観に魅了され
鈴木さんが写真をこれほど大事に思うのは、そこに至るまで、時間をかけて自分と向き合い、探究してきたから。遡ること学生時代、空間デザインや造形を専攻していたという鈴木さんは、卒業後に3Dから2Dの世界へ。映像制作業界で働く中で出合った、写真と言葉で綴るフォトエッセイで知られる藤原新也氏の写真集『メメント・モリ』(三五館・刊)に心を突き動かされ、20代後半で写真の世界へ飛び込みました。
東京・神宮前にある「アトリエ・ピッコロ」の様子。封筒やノートなど、鈴木さんの作品を使ったアイテムやマスキングテープなど、写真の保存に活用できるアイテムが所狭しと並んでいる
「写真と文章だけで自分の世界をつくる。私もそういうシンプルな方向で表現をしたいと思ったんです。写真は師匠の下で修業をしながら勉強して、3年半で独立しました。ただ、当時は“何を自分の一番の得意分野にしたらいいか”ということがまだわからなくて。師匠からは『向いているかどうかはあとから考えればいいから、まずは現場を数こなせ』と言われ、いただくお仕事をこなしていました」
感謝の思いから自作した
写真封筒©︎が呼び水に
自分が撮りたいものと頼まれる仕事が一致しているのか、悩むこともあったと言う鈴木さんですが、「独立して初めて出す請求書に喜びと、感謝の思いを込めたくて自作した」という「写真封筒©」が、思わぬ流れを生み出します。
「撮影した写真をプリントして封筒を手づくりし、請求書を入れて送ったら、『欲しい』というお問い合わせをあちこちからいただいたんです」
仕事先以外でも、旅先で写した写真をお世話になった方へのお礼を兼ねて封筒にして送ると喜ばれ、「自分たちの街の写真や思い出の風景が封筒になっていることがうれしい」という声を聞くうちに、「“ずっと手元においてもらえる写真”と“人々や暮らしに寄り添う写真のかたち”について考えるようになった」と話します。
写真左「写真封筒©」は、鈴木さんにとって思い出深く、また大切なアイテム
“写真を残す”活動を考えるきっかけになった「写真封筒©」ですが、自身の創作活動や表現は「まず1人で解決できるぐらいの小ささで始めよう」と思い、動き出しました。
「当初は月1回、お店を借りて写真封筒©を販売したり、海外のアートフェスタに呼ばれて現地で売ったり、写真封筒©を作るワークショップもやりました。その後、2015年に『アトリエ・ピッコロ』を開店し、最初は写真封筒©だけを並べていましたが、いまは写真やカメラ、封筒に関連するもの、文具を中心に小物なども販売しています」
ときにはアトリエ(ショップ)を飛び出し、イベントに呼ばれて、出張出店することも
スナップは“メモ”
古本をアルバムに
文具が大好きで、海外に行くと必ず地元の文具店に立ち寄るという鈴木さんは「なんて書いてあるかさっぱりわからないんですが、領収書なども文字やデザインが素敵だと、別の使い方もできるなって思って買ってしまうんです」と笑います。また、旅先で安い古本を買い、その中面にプリントした写真を貼ってアルバムにしてしまうというアイデアも。
旅先のオーストリアで購入した古本に、現地で撮影した写真を貼り付けて。言葉が読めなくても、写真とのマッチングのよさ、見開きページの完成度の高さが伝わってくる
暮らしを軸に
写真で日常を記録
プロの写真家として引き受ける仕事と、自分が探求したい写真の在り方。その両輪を回しながら「ここではないどこかに、何か自分の核となるものがあるんじゃないか」と海外にも頻繁に出かけて模索し続けたという鈴木さん。しかし、2016年の出産を機に、探し続けていたものが「ここにあるのでは」と気づいたそう。
「足元を見てなかったな、という感じでした( 笑)。『軸足を“暮らし”に置いたら、逆に写真をどう暮らしに合わせ、密にしていくか?』ということを考えるようになって。それまでも、町歩きをしながらフォトエッセイを書く仕事などもしていましたが、町を好き勝手に“切り取る”ように撮影するのではなくて、そこに住む人たちの暮らしにもっと寄り添いたいと思いました。私がやりたいことは、“暮らし” や“ 人と人とのつながり”を大事にすることだと気づいたんです」
写真上段、東京の街にある消えゆくお店や風景を1冊のフォトブックにまとめている鈴木さん。それをその場所の持ち主に贈り、「返す」活動をしている
すると仕事の写真でも、いまの暮らしや状況に近い作品を求められることも増え、これまで1人で活動していたことも「もっと人を巻き込みたくなって」、『写真と暮らし研究所』を立ち上げることに。一方で、鈴木さん自身の暮らしの中にも、写真は日常の記録に取り入れられています。
「ノートに写真を貼って、日常のちょっとしたことを書き込んでいます。最近は、庭で野菜を採ったり、公園で遊んだり、子どもといっしょにできることも増えてきたので」
ブルーグレーの色ペンがお気に入りという鈴木さんは、記録することが好きで、これまでもアイデアや好きな印刷物を切り貼りしたコレクションノートをつくっていました。お子さんのことも、母子手帳に事細かく書いていたそうです。
旅先で買った大判のノートに、写真と言葉で綴った息子さんとの日々をログしている
「製本されたフォトブックも大好きで、ネットオーダーのものを利用したり、自分で業者といっしょにつくることもあります。きれいに印刷・製本されるので素敵な写真集にはなりますが、一方で、日常の写真をもっと気軽に記録にできないかなと思っていたんです。そんなときちょうど、仕事をよくご一緒するキヤノンの方からスマホ専用のミニフォトプリンター、“iNSPiC”を紹介してもらい、使い始めたらこれがすごくよくて。自分の手元だけでできるからとても便利です」
毎日の食卓は
マンスリーに
鈴木さんは、お子さんが1歳を迎えた2年前に、生活拠点を東京から郊外へ移し、家庭菜園をするなど自然の中での暮らしを楽しんでいます。
そんな鈴木さんに、今回はiNSPiC同様、スマホで撮影した画像も気軽にプリントできる小型サイズのフォトプリンター「SELPHY」と共に、1日1ページ手帳を使っていただいたところ、マンスリーページには1カ月の「食卓記録」がずらり。その写真からも、彩り豊かな鈴木家の食卓の様子が伝わってきます。
マンスリーページには、ゴーヤなど家庭菜園で採れた野菜やそれらを使った料理などを記録。色とりどりの野菜が美しい
「シークヮーサーが採れたとか、イチゴミルクをつくったとか、日々の食事や食材の写真をプリントして貼っていったら楽しかったです。SELPHYだと、マンスリーの1日のボックスにぴったり合うサイズでプリントできる上、シールになっていてそのまま貼れるので、便利ですね」
好きなものを集めた
デイリーコレクション
デイリーページはコレクションでまとめる斬新さ。「本当は、本文用紙を珈琲染めしたい」という創作意欲あふれる鈴木さんは、「色がかわいい」と美容院の案内ハガキの破片を切って貼るなど、撮影のインスピレーションになりそうなものをデイリーページに保管。また、写真封筒©を貼って、「その日に会った人の名刺を入れておく」こともあるそう。
ページに貼付した写真封筒©には、名刺や気に入ったポストカードの破片など、紙モノを収納
いつでも手に取って眺められる手帳やノートに“写真を残す”のも1つの手段。気負わず、手軽につける記録もまた、鈴木さんが大事に思う「暮らしに寄り添う写真」であり、パラリとめくれば、いつでもその日の思い出や気持ちに戻れる場所になりそうです。
写真と紙片、ひとことメモなどがコラージュされたデイリーページ。「SELPHY」でプリントした写真は色鮮やかでページが映える。スピンの先にも大ぶりのビーズを付けて、カスタマイズ
鈴木さんの写真には、ファインダーの外に広がる物語を想像させる奥ゆきとリアリティがあります。やわらかな光に包まれるような、ふわりとした温かさの奥に宿る揺るぎない想いの強さ。それは鈴木さん自身から感じるものでもありました。鈴木さんの中で、これからどんな暮らしの物語が表現されていくのか、いまからとても楽しみです。