画家・岡村芳樹さん インタビュー【後編】 画家・岡村芳樹さん インタビュー【後編】

「自分の絵が時代のアイコンになれたら」
画家・岡村芳樹さん インタビュー【後編】

Yoshiki Okamura Collection Special Interview

クリエイターの方々に作品制作の裏側をお聞きする“クリエイターインタビュー”シリーズに、鮮やかで力強い油絵アートを描く新進気鋭の画家・岡村芳樹さんが登場。

マークスとコラボレーションした2025年版の手帳や、岡村さんの多様な筆跡と色彩を取り入れた雑貨&文具の「岡村芳樹コレクション」は現在好評販売中。使うたびにアートを感じられる、美しいアイテムが揃っています。

情熱の国・スペインで瑞々しく実るオレンジをイメージした「バレンシアの橙」、赤ちゃんが眠っている様子を柔らかで優しい情景で表現した「Baby asleep」、鮮やかな色使いで海の生命力と豊かさを象徴した「豊饒の海」などの作品を採用したデザインの雑貨や文具が日常を彩ります。

また、10月29日(火)からはMARK’STYLE 麻布台ヒルズ インショップギャラリーにて岡村芳樹さんのギャラリーイベントの開催が決定。「岡村芳樹コレクション」やマークスとのコラボ手帳、岡村さんのオリジナル画集の販売、アートの展示などをおこないます。

インタビューの後編では、岡村さんが絵を描くうえで大切にしていることや刺激を受けた作家、画家として歩んでいくなかでの気持ちの変化などをお話いただきました。

TEXT:小林千絵 PHOTO:柴崎まどか

あらゆるものを切り開く人になりたい


あらゆるものを切り開く人になりたい

──岡村さんの作品はタイトルも素敵です。タイトルはどのように名付けているのでしょうか?

自分の絵は、正方形の世界の中で閉じている感じがするので、その絵の中に封をする感覚で毎回タイトルを付けています。

──お話を聞いていても言葉選びが多彩ですが、言葉の引き出しはどのように増やしていますか?

学生時代の6年間、インターネットもテレビもない寮生活をしていたので、読書しかすることがなかったんです。そんな中、アレクサンドル・デュマの「巌窟王」や、村上龍さんの「5分後の世界」など、不自由の中で足掻く小説を読みながら、当時の自分の状況を重ね合わせて勇気をもらっていました。

──なるほど、小説からの影響も。

はい。僕はもともと体があまり強くなく、孤独や自分自身と向き合う機会や、一人で考える時間が多かったんです。だから自分も、読んでいた小説の登場人物のように、一人の力であらゆるものを切り開く人になりたいと思っていました。そういうところも絵の中の言葉遣いに生きているのかもしれません。

──最近読んで響いた小説はありますか?

三島由紀夫さんや佐藤究さんの作品ですね。あまりにも美しすぎて、絵では表現できないなと感じてしまうほど。でもそうやって敗北感を覚えることや、無力感を知ることもいい経験なのかなと思います。これからもいろんな文学と出会えるよう、本は積極的に読んでいきたいです。

旅先で物を見ることが一番のインプット


旅先で物を見ることが一番のインプット

──現在、岡村さんデザインのコラボ手帳が発売中ということで、数多くの作品を生み出している岡村さんの1日の過ごし方を教えていただけますか?

ギャラリーを開ける日はいつも朝9時頃に起きて、10時前にギャラリーへ行き、掃除をしてからオープンしています。それ以外のスケジュールに関しては、基本的に何も決めないことが多いです。

あと、食事をとると眠たくなってしまうので、いつも仕事が終わってからご飯を食べています。決めていることといったらそれくらいですかね。

──ギャラリーにいて時間があるときはずっと絵を描いている?

はい。ただ、最近はちょっと手を動かしすぎてしまっているので、これからは少し数を絞ろうかなと思っています。インプットの時間が足りていないんですよね。だから今年の後半はいろんなところに旅行をして、インプットの時間を増やしたいと考えています。

──絵を描くうえでのインプットとして一番大きいのは旅行ですか?

そうですね。旅先で物を見ることが一番のインプットです。デッサンは描くのが2割、見るのが8割と言われていますが、抽象画を描く前にそういう絵を描いていたことで、一人で何かを見るインプットの時間がすごく大事だなと思うようになりました。

――そこで見たものがまた岡村さんの絵の要素になっていくと。

自分の足で行った場所、自分の目で見たもの、自分の手の中で培ったもののみが財産だと思っています。それ以外のものを取り入れると、なんだか濁ってしまう気がしていて……。

旅先で物を見ることが一番のインプット

──では、意識的に見たことないものを見にいくようにしているのでしょうか?

そうかもしれません。人間って思春期が終わると、ぐちゃぐちゃな自分を整理する時間が始まると思うんです。でも、整理した時点で自分というものはある程度出来上がってしまう。そうすると、そこに何を足しても新しいものにはならないんですよね。

だからといって諦めたくはなくて、ちゃんと足掻き続けたい。だからきっと、その“足掻くもの”を作るための時間を作ろうとしているんだと思います。

──それはまた年月を重ねるたびに、変わっていくかもしれないですもんね。

絵って、言い訳ができない空間だと思うんです。今この瞬間に自分が思っていることや、自分の技術・知識がそのまま表れてしまう。そんな言い訳のできない自分を見つめる時間というものがすごく大事なんじゃないかと思っています。

芸事は逃避する場所ではなかった


芸事は逃避する場所ではなかった

──岡村さんの表現の形について、もう少しお伺いしたいです。画家として歩むうえで刺激を受けた経験などはありますか?

僕は村上龍さんの「愛と幻想のファシズム」と「五分後の世界」という作品が好きなんですが、その中に「表現は誰にでもわかる方法と言語で自分の勇気とプライドを世界に向かって示すことだ」という文章が出てくるんです。高校生のときにその一文を読んで、すごく勇気をもらいました。

──その一文と出会って、どんな変化がありましたか?

誰にでもできる方法で、勇気とプライドを世界に示すことで、伝わったか伝わっていないかという、“勝ち負け”のようなものがあるのだと感じるようになりました。それまでは、僕にとって絵を書くことは逃避だったけど、芸事は逃避する場所ではなかった。そう思った瞬間から、絵を描くことがめちゃくちゃ面白くなったんです。

芸事は逃避する場所ではなかった

──絵を描くことに対して、気持ちのうえでの大きな変化に繋がったと。

はい。最初は逃げだった絵を描くことが、ちゃんと苦しいなと思うようになった。でも、それはそれで悪くないかもしれないと思えたことが一番の財産かなと思っています。

──現在も、その気持ちを持ち続けながら絵を描かれているのでしょうか?

絵は残ることが一番の価値だと言われていますが、僕は残り続けることを目指しながらも、一瞬でもきれいだと感じてもらえたらうれしい。そしてそれが誰かの生活のそばにあり続けたらより幸せなことだと思っています。

“勝ち負け”とは少しちがいますが、そのためにどんな活動をしていくことが大切なのかを考えることが、今の活動のエンジンにもなっています。

多くの人に自分の絵を見てもらいたい


──では最後に、岡村さんの画家としての理想像や目標を教えていただけますか?

僕の活動のコンセプトは「自分の絵がその方たちの生活のそばにあること」です。だから自分の絵は、商業利用以外だったらSNSのアイコンやヘッダーにすることなども許可しています。

僕のことを知らなくても、とにかく多くの人に自分の絵を見てもらいたいんです。だから、「岡村芳樹コレクション」やマークスさんとのコラボ手帳もそのきっかけのひとつになっています。

パッと鮮やかで力強い印象のあるカラーリング
岡村芳樹コレクション:パッと鮮やかで力強い印象のあるカラーリング

優しいカラーリングの絶妙なグラデーション
岡村芳樹コレクション:優しいカラーリングの絶妙なグラデーション

気分も上がる華やかな色合いのコンビネーション
岡村芳樹コレクション:気分も上がる華やかな色合いのコンビネーション

──コラボ手帳や文具を通じて、岡村さんの絵がより多くの方に届くといいですね。

はい。絵はもちろんですが、コラボ手帳や「岡村芳樹コレクション」の雑貨や文具を見て「いいな」と思って手に取ってくれたり、そこから「その手帳、何?」って会話が生まれたりしたらすごくうれしい。

そして、今年の手帳を使い終わっても、また次の年の手帳に自分の絵が採用されたらと思っています。そしたら、みなさんの生活と共にいられる作家になれる。そしてゆくゆくは自分の考えや価値観が広まって、自分の絵がその時代のアイコンのようになれたらと。



◆岡村芳樹ギャラリーイベント情報

会場:MARK’STYLE 麻布台ヒルズ インショップギャラリー
   東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズタワープラザ4F
期間:2024年10月29日(火)~2024年11月17日(日)



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プロフィール

岡村芳樹 Yoshiki Okamura

東京、京都、兵庫、プラハ、北海道を転々としながら生活。生活における視界から抽出された事象を等身大の大きさの中に込めることを画業の中心に据えて創作活動を展開。手の内に収まるテラリウムのように、触覚的な性質を多く持つ視覚の芸術に温度や湿度、味覚を想起させるような仕掛けを組み込むことにより、絵画の機能を拡張することを目指している。


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