実在していそうで、していない、
ホテルの名を冠したバッグブランド
「HOTEL」という言葉は、世界中のどこでも「快適さ」を思い出させる。フランスのバッグブランド「HOTELParisTokyo」は、自身が生み出すプロダクトのすべてが「HOTEL」のような「快適さ」を提供することを願い、ブランド創設者ステファン・ヴェルディーノがつけた名前だ。そして「HOTEL」は、世界中で同じように発音される(フランス語においてHは無音であるが)ことも、ネーミングの理由である。そしてフランス政府自らお墨付きを与える“パラスオテル”の超名門ホテルのように、時代を超越するオーセンティックなプロダクトを通して、人生を豊かにしようというのだ。
共同設立者、ティボー・レノー。かつてステファン・ヴェルディーノが自身の名を冠した、バッグのハイエンド・ブランド「Stephane Verdino」において、まさに“右腕”とよばれたパートナーだ。それぞれにデザインとコミュニケーションに長年携わってきた彼らが、影響を受けたふたつの都市「Paris Tokyo」の名をたずさえ、2016年の終わりにパリのファッション業界に舞い戻ってきた。
ファッション大国で「メイド・イン・フランス」を貫く意味。
「HOTELParisTokyo」は、「メイド・イン・フランス」にこだわったブランドだ。パリで再びブランドを始めるために場所を探していた際、レザーベルトの専門工房を発見したステファン・ヴェルディーノは「分厚いネック部分の革漉き作業を見たんだ。そのすばらしいスキルは、私のコレクションにぴったりだとパッションを感じたよ」と語る。いわゆる工場や工房に魅了されたステファン・ヴェルディーノにとってそこは「まさに私が探していた場所だった」。フランス人デザイナーによるデザインとフランスの素材を採用し、フランスの工房で丁寧につくられたプロダクト。フランスを「ファッション大国」足らしめているラグジュアリーブランドは、もはや「ラグジュアリー・コングロマリット(複合企業体)」である。そのフランス・パリで、「ものづくり」にこだわるというのだ。
ラグジュアリーを知り抜いた男の「まっとうな抵抗」。
「私たちはクリエイターとクラフトマンの境目に位置するブランド」と表現するステファン・ヴェルディーノ。「私はこのブランドで、かつてクリエイションを担当していたウィメンズマーケットのブランド(Stephane Verdinoのことだ)に対抗するつもりはないね。粗悪なバッグを大量に流通させる、ラグジュアリー・メゾンの手の届かないメンズマーケットに興味がある。ニッチだけどまだ自由があるから」。ステファン・ヴェルディーノは、 “巨大メゾン”の文化に、ほとほと嫌気がさしたようだ。「上質な素材・時代を超えるデザイン・価格とのバランスによって、ブランドを成長させていくつもりだ」。
世界中の女性たちをバッグで魅了してきた男が、地に足を付けたクリエイションで「メイド・イン・パリ」というレジスタンスを表現しはじめた。